オリジナルプリント付(プリントの絵柄は選べません)
著者:公文健太郎
編集:藤木洋介(Yosuke Fujiki Van Gogh Co.,Ltd.)
翻訳: ロバート・ツェツシェ
デザイン: 宮添浩司
サイズ:154×108mm
頁数:400ページ
製本:ライブアートブックス
発行年:2024年11月4日 初版発行
発⾏: COO BOOKS
ISBN:978-4-9913858-0-3
2024年末にRollで開催された写真展に際し発売された、公文健太郎の最新作『煙と水蒸気』は、明確なテーマが設定されたドキュメンタリーフォトの作品をこれまで発表し続けてきた彼の新境地と言える作品です。
大学一年生の時に公文が父から譲り受けたハーフサイズカメラ「OLYMPUS PEN FT」は、ミラーをボンドでくっ付けるくらいの使い古されたオンボロカメラでした。
本作『煙と水蒸気』は、そのカメラを使って、2023年の1年間をかけてシャッターを切り続け、その膨大な写真の中から編まれた1冊です。
写真を生業にするきっかけとなったカメラで撮影した本作は、唯一の父と唯一のカメラの結託によって、彼と写真を未来にいざなった軌跡であると言えるでしょう。
手のひらに収まる小ぶりなサイズの、400ページの厚さのある造本がユニークです。本に貼り付けてある封筒の中に、オリジナルプリントが公文からの手紙のように添えられています。
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2023年の1年間。久しぶりに古い父のカメラを取り出して僕は写真を毎日撮った。何も考えず、とにかくシャッターを切った。今使っている最新型のカメラと違って、古びたカメラは思う通りに動かなかった。ピントがボケたり、画面がざらざらになったり、フィルムが破れたり。でも実家のことや父のことを考えている時期だったこともあり、記憶を行ったり来たりするような不思議な写真が映っていた。
写真はテーマに沿って撮るものだと考えてきた僕にとって、それは新鮮な日々だった。仕事の撮影でもなく、とくにテーマもなく、無駄だと思ってきたところでさえ足を運ぶようになった。友人の展示を見に他県まで行ってみたり、家族のイベントに参加してみたり、妻と近所を散歩してみたり、それから実家にも何度か足を運んだ。そんな時間もいいじゃないかと思えるような、写真に許され、与えられた豊かな時間だった。特に父と母が実家を引き払い、長く家族で暮らした家を出て、今後を見据えて僕の家の近くに引っ越してくる、そんな流れにじっくりと向き合うことができた。
実家の押し入れからは古い家族の写真に加え、父が昔同じカメラで撮った写真のプリントとスライドが山のように出てきた。父が趣味を楽しむ人であったことがわかって安心したし、何十年も前に父が同じカメラのファインダー(窓)で切り抜いた風景と、僕が切り抜いた風景がどこか似通っていることが嬉しかった。まるでこの1年の写真は、父の目を借りて撮ってきたのか?と思えるほどであった。
無事引っ越しを終えた父と母は、近所のマンションに暮らすようになった。実家がなくなった寂しさはあるけれど、旅先で土産を買う楽しみもできたし、今のところは良かったなと思っている。
父は変わらず毎日窓の向こうを眺めている。新居の窓は小さく、海にかかる橋が見えることもない。ただ空が映るだけである。
(あとがきより)