








第29回(2020)林忠彦賞受賞作品
著者:笠木絵津子
出版社:クレオ
発行年:2019
サイズ:B4変判
ページ数:130P
第29回林忠彦賞受賞作
本書は、現代美術家の笠木絵津子が日本統治下の東アジア(朝鮮、台湾、満州国)に生きた母・久子(1924~98 年)の軌跡を辿り、家族写真や古写真、そして自分自身の写真とコラージュした作品です。
母は、著者にとって自分の上にかぶさる「大きな傘のような存在」で、粘着されているように感じる疎ましい存在でした。しかし1998年に母親が亡くなったとき、著者は自分の半分が失われたように感じ、それは「片足が棺桶に突っ込んでいるようだった」「母親が自分を連れて行ってしまう感じがした」そうです。「私の知らない母」を知ることは、自分がこれから生きていくために必要なことでした。母の死から20年以上の歳月をかけ本書は編まれました。
本書に収録されている笠木母娘の家族史は限りなく個人的なものです。執念深く母の足跡をたどった著者は、残された写真を元に、どの場所で母が生活していたかを実際に現地へ訪ね検証します。また、家族の証言や、母が残した手記、現地で見聞きした事柄が、本書では克明に文章で綴られています。
個人の歴史が徹底的に突き詰められた作品ですが、その背景には戦前・戦中・戦後の東アジアの大きな歴史が川のように現在まで流れ続けており、個人と歴史がダイナミックに交錯した、一大叙事詩の様相を呈しています。
本作に触れた人間は、自らの体験や、家族への愛憎と重なり、イマジナリィな旅が広がっていきます。
「個人的なものが特殊性を超えて何らかの普遍的なるものを獲得するためには、曖昧な一般性に引き戻すのではなく、全く逆に、その個別性・一回性をギリギリの地点まで追いつめることが必要なのではないか。この写真集は、まさにその試みではないのかーと。」(京都大学人文科学研究所教授・山室信一氏テキスト「笠木絵津子の「時層写真」」)
異なる立場から編まれたごく個人的な事物を束ねた時、はじめて真実に一歩近づけるのかもしれません。
他者(肉親でも・それ以外でも)と出会い、その存在を認め合う。そのためのヒントがこの作品には隠されているのではないかと思います。現代に生きる、すべての皆さんにお勧めする一冊です。
■展覧会情報
笠木絵津子「私の知らない母」大型プリント展
―林忠彦賞受賞を記念してー
2020年10月8日(木)~10月25日(日)
火~金 12:00~19:00 土・日 12:00~18:00
休廊:月曜日
会場:コミュニケーションギャラリーふげん社
〒153-0064 東京都目黒区下目黒 5-3-12
TEL:03-6264-3665
詳細:https://fugensha.jp/events/201008kasagi/